レメディの使い方ABC

イグナシア Ign.

2010-04-15

こんにちは、クラシカルホメオパシー京都の荻野千恵美です。

京都には、世界中から人が押し寄せる季節が年に2回あります。
春の桜と秋のもみじ。

私は、京都に引越してきてまる2年。
2度目の桜の季節を楽しむことができました。
哲学の道、鴨川の並木、円山公園、平安神宮、東寺、下鴨神社・・・・・。
数えだしたらきりがないほど、京都の街は、桜の名所だらけです。
日本人は、なぜこんなに桜が好きなんでしょう。
いっせいに、淡いうすべに色の小さな花びらが溢れ出し、あっというまに散ってしまう。
日本人の気質に、桜のような生き様に似たところがあるのかもしれません。

専門コースの授業の会場である、「国際交流会館」も、東山の麓 南禅寺の近くの桜の名所にあります。
先週末、3年生の授業がありました。
今年は運良く、ちょうど桜の時期と重なりました。
地下鉄「蹴上」駅から会場まで向かう道は、満開の桜。
お昼休みは、平安神宮の方に食事に行きましたが、途中の疎水べりの桜も見事でした。

授業も、東京から中村裕恵先生に来ていただき大盛況でした。
授業は、3年生対象にしていただいたのですが、2年生の希望者やホメオパスとしてすでに活動を始めている人にもギャラリーとして参加していただきました。
6時間、お人柄そのままのエネルギッシュな授業となりました。
私は、講義をされる先生の表情、それを受け止める生徒さんたちの表情を後ろからじっと見ていました。
そして、先生と私たちの学校の生徒さんたちとの相性の良さを感じました。
明るく本音主義。日本のホメオパシー界では、パイオニア的な存在の医師ホメオパスです。

まだお若いので、「日本のホメオパシー界の生き字引」なんていったらしかられてしまいますが、日本の現実、世界の実情をよく理解され、明快に解説していただきました。
参加者の方々にとっては、満開の日の桜のように、惜しみなく、目いっぱい与えてもらえるような一日になったと思います。

次回は、来春早々の1月に来ていただく予定です。
東京の産婦人科開業医の家で育った先生からは、臨床家としてのしっかりとしたスタンスが感じられます。
ホメオパスとしてこれからやっていこうとする人たちの力になりそうな症例をたくさんご紹介していただき、ご指導いただけるということです。

それでは、始めましょう。

「セルフケアコース 神経・感情から起きる不調に適するレメディ」その6

<イグナシア Ign.>

原料は、マチン科の植物です。

前回ご紹介したナックス・ボニカと同様、ストリキニーネという毒性の強い成分を含んでいます。含まれている毒性は、イグナシアの方が強いようです。

ナックス・ボニカは、目標に向かって野心的に自分を駆り立てます。
効率を重んじ、最短距離でゴールに一番乗りしたい人。

イグナシアは、ちょっと様子が違います。
豊かな感受性を持ち、感じすぎることで自分を乱してしまいます。

イグナシアという名前には、イグナチウス・ロヨラという宣教師が自分の名をこの植物につけたという由来があります。
彼は、戦争に行って、負傷し、療養生活を送る中、聖書を読みふけり、キリスト教に目覚めた人です。
回復した後、聖職者となり、日本に布教にやってきたフランシスコ・ザビエルらと共にイエズス会を作りました。
布教のためにフィリピンを訪れたとき、この植物に出会い、ヨーロッパに持ち帰りました。

レメディは、その原材料となる物質の姿・形・毒性・生息の仕方だけでなく、人間との係わり方や歴史的な背景なども、どこかその症状イメージに影を落とすようです。

イグナシアのレメディがマッチする人は、信仰のために海を渡った宣教師のように、高い理想やロマンを求める人が多いようです。
文化的にも、洗練され、芸術的なものにも心を向けます。
自分の人生にも、パートナーや子供にも期待を寄せます。
こういった人の場合、現実との間で、葛藤を持ちやすいです。
そして、失望感を感じてしまうことも多いでしょう。
人生の途上で、自分が期待していた理想を断ち切られるような経験した場合、この人は、どうなるでしょうか?
マテリアメディカ(薬効書)の精神症状の項目には、“INCONSTANCY”という文字が大文字で出てきます。
日本語にすると、「変わりやすい、不足の、変化の多い、気まぐれな。」などとあります。
イグナシアの精神症状には「気分が変わりやすい。」「気まぐれ」「衝動的」「理屈が通じない。」「ヒステリック」というのがあります。
でも、“INCONSTANCY”という文字をよく見てみると、CONSTANCYに否定形のINがついているのがわかります。
CONSTANT・・・絶え間なく続いていく。
これが途絶えたしまった状況。
こらからずっと続いていくと思っていたことが途絶えてしまった・・・。
こういったことは、だれにでも起こることですがイグナシアの人は、特に激しく混乱してしまいます。

ヨーロッパでは、イグナシアを「お葬式レメディ」といわれているそうです。
身近な人を失った混乱から救ってくれるレメディ。
覚悟はしていたにしても、いつもそばにいた人を失ったとき、悲しみの前に、まずはその現実を受け入れられないという「混乱」に苦しむのではないでしょうか。

そのようなとき、人は「嗚咽」をもらします。
これは、のど(咽)で鳴くと書きます。
イグナシアには、喉の症状がたくさんあります。
喉が、締め付けられるような感じ。喉にかたまりがあるような感じ。
固形物は飲み込めるのに、水分は飲み込めない。
ため息。すすり泣き。頬の内側を噛んでしまう。口のまわりの引きつり。
過食や拒食的な傾向。

数年前、福岡か佐賀あたりで、小学校高学年の女の子が仲良しの友達に殺されるという事件がありました。インターネットの掲示板かチャットだったかでの言い争いが原因だったということでしたが・・・。
被害者の女の子のお父さんが新聞記者で、彼の手記がテレビや新聞で紹介されていました。
「娘の歯ブラシが洗面所にはあるのに、なぜ、彼女がいないのか?」
「夕方になったのに、なぜ、娘は帰ってこないのか?」
「朝が来たのに、なぜ、娘は部屋からでてこないのか?」
「胸が苦しい。」「息が詰まる。」
悲しい、悔しいという言葉ではなく、「混乱」に苦しむ父親の姿がみえます。
いかにも、イグナシアのイメージが立ち上がってくる表現に、当時驚いたことを覚えています。

イグナシアというのは、このような状況に巻き込まれたとき、どんなタイプの人に対しても救いになるレメディです。
また、イグナシアを体質的に必要とする人は、こういった出来事が、心身の不調の引き金になりやすい傾向を持っています。

悲しみから発症するレメディの代表格は、Nat-m.(ナット・ムール)。
岩塩を原料とするレメディです。
イグナシアは、急性のNat-m.ナット・ムールといわれています。
ナット・ムールは、固い塩の壁で自分を守り、古い納得できなかった出来事をいつまでも手放せないでいる人です。
イグナシアは、悲しみが、まだ生々しく、混乱し苦しんでいる人です。
そして、どちらかというと女性に多いそうです。
ナット・ムールを必要とする人との男女比は1対1くらいですが、イグナシアは1対10~15といわれています。