今月のレメディ

Tub.(Tuberculinum) 結核菌

こんにちは、荻野千恵美です。

緑の燃え立つ季節、ゴールデンウイークを皆さんはどのように過ごされましたか?

私たちは、多くの人で混み合う観光地を避けて、
ご近所の大津の街中での散策を楽しみました。

皆さん、明治に起きた日本を揺るがすほどの大事件「大津事件」をご存知ですか?

明治24年、日本を訪問中のロシア皇太子が警備の巡査に切り付けられたという事件です。
(大津事件)
https://info.yomiuri.co.jp/media/yomiuri/ayumi/ayumi_02.html

私たちは、その事件のあった近くの旧東海道沿いに住んでいます。
旧東海道を京都に向かいまっすぐ行った突き当りの長等山(ながらやま)山上には、
三井寺観音堂が威風堂々と建っています。

江戸時代の人々は、東海道をてくてく歩いて、大津の宿場町まできたとき、
山上に立つ観音堂をどんな気持ちで眺めたのでしょうか。

観音堂は、三井寺の展望台のような存在で、
旧東海道側からの急な階段を上り切っていくこともできますし、
なだらかな坂道を迂回して登っていくルートもあります。

もちろん、私たちはいつもなだらかなルートを選んで歩きます。

この道には、たくさんの紅葉の木が植えられています。
三井寺は桜の名所でもあり、紅葉の名所でもあります。
ゴールデンウイークの良く晴れた日に、この道を歩きましたが、
青紅葉(あおもみじ)の葉を通して降り注ぐ、5月の陽の光は若々しく、
その上には真っ青な空が見えて、初夏のかおりも漂っていました。

観音堂わきの展望台からはびわ湖に面した大津市街を一望することができます。

(三井寺・観音堂)
https://tabi-mag.jp/sg0104/

10年以上前になりますが、私が初めてここを訪れたとき、
自分の生まれ育った神戸の街に似ているのに驚きました。

大津は、神戸が開港するずっと以前の江戸時代に、
宿場町、港町として大変賑わい栄えたところです。
私が大津と神戸が似ていると感じたのは、どちらも、
海と山が近い港町の地形をしたところだったからでした。

大津は、神戸のような明るく軽やかな雰囲気は少ないのですが、
街のそこかしこに、古くに賑わった時代の余韻のようなものが、
残っていて、私の心を和ませてくれるところです。

さて今回は、少し変わったものを原料とする
レメディをご紹介したいと思います。

(2017年にブログでもご紹介しました。
https://ameblo.jp/sunny-garden/entry-12250569748.html)
<Tub.(Tuberculinum) 結核菌>

ホメオパシーのレメディの原料となるのは、
主に自然の三界~鉱物・植物・動物です。

鉱物は、結晶を作る構造的な存在です。
鉱物レメディを必要とする人は、秩序立っていて、構造的です。

自分には・・・
家族や周りの人との関係性を作ること。
自分や家族の安全を確保すること。
創造性を発揮し、表現すること。
自分の社会的責任を果たすこと
などに対して
・・・自分にはその役割を果たす力が欠けているためにうまくやって
いけないと考えがちです。

植物は、地面に根を張っているため、動くことができません。
周辺環境~雨風・暑さ寒さ・光や音等~の影響を強く受けます。
敏感に感じて適応しようとする存在です。
植物レメディに合う人は、何事にも敏感に反応します。
敏感で弱く感じられるかも知れませんが、
水と光さえあれば生きて行く強さも持ち合わせています。

動物は、自分の命をつなぐために、餌を求め、子孫を残すために異性を求めます。
餌の獲得にも、パートナーの獲得にも避けられないのが、競争です。
動物レメディの人は、サバイバルというテーマを持ちます。
魅力的に振る舞うことも必要ですし、ライバルには強い嫉妬心を持ちます。

レメディの原料には、自然の三界以外にもあります。
その一つに、人が病に侵された患部を原料とするレメディがあり、それを
Nosodes(ノソーズ)と呼んでいます。

Nosodes(ノソーズ)のレメディを必要とする人ってどんな人だと思いますか?

もし、あなたが、結核の病巣部だったらどんな気持ち?
・・・なんて考える人は、普通はいませんよね。

でも、クラシカルホメオパシー京都(学校)では、
このようなことをイメージしたり、話し合ったりする時間を大切にしています。

身体に備わっている生命力(免疫)は、病巣部の存在を許そうとしませんが、
生命力(免疫)が弱って来ると、病巣部ができてきます。
病巣部側も、存在するからには、少しでも大きくなりたいし、繁栄したい。
しかし、繁栄しすぎると宿主の人間が死んでしまい、自分の命も尽きてしまいます。
そういう矛盾をかかえた苦しい存在です。
インドの巨匠サンカランは、Nosodesのテーマを、
「死にもの狂い・やけくそ・絶望」と表現しています。

ハーネマンは、3つのマヤズム(病の素因)を提唱しました。
Psora ソ-ラ(疥癬)マヤズム。
Sycosis サイコシス(淋病)マヤズム。
Syphilis シフィリス(梅毒)マヤズム。

それぞれのマヤズム毎の代表レメディは、各病巣部から作られたレメディ
とも言えます。
ハーネマンの生きた時代(18世紀)の慢性病は、皮膚病と性病が中心でした。

しかし、時代がもう少し進むと、世界は、結核の時代を迎えます。
ヨーロッパでは、産業革命が起きて、都市に人が密集し始めます。
人々はまだ貧しく、栄養状態も衛生状態も悪かった頃に大流行したのが結核です。
結核菌の感染力は強く、多くの人が若くして亡くなりました。
最初は、風邪のような症状ですが、肺だけでなく、全身を巡り、潜伏し、時には
脳まで侵す恐ろしい病気です。
日本では幕末から明治、大正、昭和20年代くらいまでは、国民病として怖れられました。

1年生の2月のレメディ学習では、
結核に感染した人の患部から作ったレメディ
Tub.(Tuberculinum)を学びました。

このレメディにマッチする人は、風邪を引きやすく、
呼吸器系の症状を起こしやすい人。
関節炎の痛みや頭痛も、持ちやすい人です。

Tub.(Tuberculinum)の精神症状は、結核が恐れられていた時代に、
この病気にかかって若くして亡くなった人の生き様と重なるところが多くあります。

高杉晋作。
幕末に長州藩で尊王攘夷の志士として活躍した人です。
当時の社会の在り方に危機感、不満感を持ち、世の中を変えようとしました。

彼の作った有名な歌。
「おもしろき こともなき世をおもしろく すみなすものは 心なりけり」

Tub.の人の精神症状の中心は「現状不満足」そして、
現状下での息苦しさから「変化」を求めるということです。
人生を短いと感じ、激しく理想や恋、芸術に捧げ、燃え尽きるような人。

ご存知のように、高杉晋作は「奇兵隊」を組織し、
たぐいまれな統率力でそれを率いるとともに、英米仏蘭の四か国連合と戦い、
そして和平交渉するなど、数々の伝説的な仕事をしますが、
結核で27歳の生涯を閉じます。

(高杉晋作/萩市観光協会公式サイトより)

高杉晋作

竹久夢二は、49歳まで生きた人ですが、やはり結核で亡くなっています。
彼は、大正時代に主に活躍しています。
明治期の日清・日露戦争と、昭和の太平洋戦争との間。
束の間の平和を謳歌できたころ。
夢二は、大正ロマンの中心人物のひとりです。
竹久夢二が描く美人画は、みんな痩せて白い肌。呼吸器が弱そうです。

Tub.(Tuberculinum)の人は、とてもロマンティックな人でもあります。

古典的なマテリアメディカ“Allen’s KeyNote”では、Tub.の人の体型について
「背が高く、痩せて、胸が狭くて、青白い顔」だと書かれています。

石川啄木も、結核で26歳で亡くなっています。
短い人生なのに、故郷の岩手から東京に出て、北海道にもわたり、仕事をしています。
恋をし、結婚して子供をもうけ、たくさんの歌を作り、
社会主義運動にもかかわったようです。
生涯貧しく、社会への不満から、社会運動に向かっていきました。

彼が生きたのは、日本全体が、一部特権階級をのぞいて、とても貧しい時代でも
ありました。貧しさや社会への不満に逆らいながら、激しく短く生きた人たちの
イメージです。

20世紀前半、パリに起きた芸術運動~エコール・ド・パリの画家のひとり、
モディリアーニ。
彼の作品にも、痩せて背が高そうな人が出てきます。
彼は、イタリア人でした。このころ、世界中からパリを目指して画家を目指す若者
が集まっていました。日本からも、佐伯祐三や藤田嗣治がパリで活躍しています。
彼らも保守的な日本の画壇に我慢しきれず、パリに旅立った人たちです。

ここにあげたいずれの人たちもとても短い人生を駆け抜けて行きました。
Tub.の人は、まるでろうそくの両端から火をつけるような人だといわれています。
E.B.Nashの古典的なマテリアメディカでは、このレメディにマッチする人のことを、
コスモポリタンな人だと書かれています

コスモポリタンとは?
一つの国にとらわれない国際人。世界主義。などという意味があります。
エコール・ド・パリの画家たちにも、コスモポリタンなものを感じます。

結核で亡くなったのではないのですが、
おもしろいTub.の症状を持った歴史上の人物が日本にいます。

BACK; HAIR growth spine; along the children; dark or long, fine hair on back of
(背部;毛-黒い長い立派な毛が背骨に生えている子供)

この症状を持つレメディは、Tub.ただ一つです。
幕末の日本で生まれた、坂本龍馬。
彼は、生まれた時、背中に立派な毛が生えていたので「竜馬」と名付けられたそうです。土佐の古い社会が息苦しくてたまらなかった竜馬。
脱藩して、故郷を出奔した後、今度は古い日本全体の制度を壊して、
新しい社会に変えようと日本中を駆けずり回った人です。

・現状への不満足。
・変化への希求。

これらは、Tub.の人の持つ中心テーマです。
また、彼は旅が好きでした。
旅なくしては、彼の人生は成立しません。
日本で最初に新婚旅行をした人だとも言われています。

MIND; TRAVEL; desire to
(精神:旅;欲する)

これは、有名な精神症状でこの症状を持つレメディはいくつかありますが、
Tub.はその中でもとりわけ重要なレメディの一つです。

ちなみに、彼のお母さんは結核でした。
家族の結核病歴というのも、Tub.を選ぶときの重要ポイントの一つです。

結核が国民病と言われた時代は去りました。
しかし、今もこのレメディを必要とする人はたくさんいます。

生徒さんの中には、このレメディを学んだ際、
「夫はサルファーだと思っていましたが、こちらの方がより近いです。」と
発言した方がおられました。

共通点は、どちらも明るくエネルギッシュで楽天的だと思います。
外気が欲しい人。空腹には弱く、食べ物も高カロリーで濃厚なものを好みます。

あなたの周りに、このような方は、いらっしゃいますか?

 

人間の病巣部から調整されるレメディ学習を通じて
病というものが人間の歴史やその時代の持つ固有のエネルギーと深く関係して
いるなんて、とてもロマンティックだと思いませんか?