今月のレメディ

Falco peregrinus 隼

日差しの明るさに、春の気配を感じるようになりました。

こんにちは。CHK荻野千恵美です。

私たちが京都市内から滋賀県に引っ越してきてから、まもなく4年が経ちます。

私たちが暮らしているのは、JR琵琶湖線、京都から2つ目の「大津」駅の近くです。
京阪石坂線の「びわ湖浜大津」駅にも近いです。

初めて「びわ湖浜大津」の駅に降り立った時、私は、まるで、日本ではない、
どこか外国のリゾート地にでも来たかのような気がしました。
からりと明るい青空の下に広い広い湖面がキラキラ光り、
湖からさわやかな風が絶え間なく吹いてきていました。

「びわ湖浜大津」は、滋賀観光のスポットの1つ「なぎさ公園」の
スタート地点でもあり、ここから、石山駅付近まで4.8kmにわたって、
湖畔の景観を楽しみながら散策できる遊歩道が続きます。

私は、滋賀に住み始めてから「びわ湖浜大津」のすぐそばの
「なぎさ公園」をよく散歩するようになりました。

琵琶湖を周遊する遊覧船が泊まる大津港。
噴水やアートな巨石モニュメントのおかれた広い広い芝生の広場。

広場には、琵琶湖畔を越冬地にする様々な水鳥たち。
1年中広場に遊ぶスズメやハト、セキレイ。
空高く1羽で舞っているトンビ。
遊覧船の会社に飼われている数匹のあひるまで。

様々な鳥たちを観察することとなりました。

群れの結束力の強さ。
雄雌のわかりやすさ。
同じ水鳥でも、陸地で餌を啄むものや、いつも水面にいるもの。
人間に対する敏感さや距離感。
鳥の種類によって様々です。

でも共通しているのは、2本の足で地面を歩くときのおぼつかないような
弱弱しさと、空を飛ぶときの自由で強く美しい姿です。

鳥には、人間には考えられないような自由があります。
風に乗って軽やかに、空高く速く飛ぶ姿は、
地上を歩く能力しかない私には、あこがれの存在です。
今回は、「鳥」のレメディをご紹介したいと思います。

(2016年にブログでもご紹介しました。https://ameblo.jp/sunny-garden/entry-12188854477.html)
<Falco peregrinus 隼>

過日の3年生のレメディの授業では、私は動物のレメディの授業を担当する
ことになりました。

専門コースでの勉強も3年目にもなると、ある程度の動物レメディを学んで
いますので、まずは、それらをすべてホワイトボードに書き出し、
全体から出てくる質感(エネルギー)を味わってもらうところから始めました。

動物レメディといっても、そのレメディの中心となるテーマは、千差万別。
インドのDr.サンカランは、鉱物・植物・動物と、三界に共通するテーマを
明確に表現されていますが、自分たちがクラスで学んだレメディを並べ、
眺め、話し合って味わってみると、Dr.サンカランの示したものとは
また違った言葉が出てきて、理解がより深まりました。

動物は、鉱物や植物と比べると、動くことができ自由度がはるかに高い存在です。

でも、学んできた動物レメディ(Sep.Lach.Tarent.Lac-c.Lac-d.Bufo.等)を
ホワイトボードに書いて、眺めてみると・・・。
生徒さんからは“重たい”といった言葉が出て来たのです。
早く飛べたり、泳げたり、踊ったり、俊敏に動くことができる能力を持った
存在なのに・・・。

動物は、自分を維持するために、常に食べるものを求め、
パートナーを求め、ライバルとの競争にさらされる存在。

動物レメディを必要とする人は、動く自由を持っているのに、その心には、
動く自由のない鉱物や植物レメディにはない、不自由さ、”重たさ”が
あることに気が付きました。

本当に不思議です。
今回学んだのは、ハヤブサのレメディです。

英国のスクールオブホメオパシーのミッシャ・ノーランド先生(故人)が
プルービングされた比較的新しいレメディです。
誕生してまだ、20~30年くらいではないでしょうか。
10年ほど前、ミッシャ先生のセミナーに参加した際に、先生がこのレメディを
プルービングしようと思い立ったいきさつなどを教わり、強い衝撃を受けました。

CHKの授業では、まずは、隼(ハヤブサ)の姿を見てもらいました。
人の拳に乗せることのできる、カラスと同じくらいのサイズですが、
食物連鎖の頂点に立つ猛禽類だけに、美しく凛々しい姿をしています。

正式名は、Falco Peregrinus (Falco-p.)

生息地は世界中に分布しています。
北の方に住むものは、越冬のため温帯や熱帯地方に渡りをします。
Periguriumというのは、「放浪する」という意味を持ちますが、
渡り鳥であることから付けられた名前のようです。

身体は美しく適度な大きさで、高い狩りの能力を持つ隼(ハヤブサ)は、
東洋でも西洋でも紀元前から、鷹狩りの鳥として飼いならされてきました。
ミッシャ先生がプルービングをしてレメディにしたのは、
自然に生きるハヤブサではなく、鷹狩りに利用されてきたハヤブサの羽根です。

日本では、徳川家康が鷹狩りを好んだことでは有名です。
鷹狩りは、ハヤブサを調教するところから、大変な労力と技術が必要なため、
庶民の楽しみではありませんでした。
王侯貴族の嗜み。
支配者が権力を誇示するためのパフォーマンスでもあったようです。

鷹狩りのために調教されるハヤブサは、翼が十分育つまでは、
両足には紐がかけられ、暗い小屋の中で、自由を奪われた環境で育てられます。
餌を自分で取ることはさせず、常に鷹匠の手から与えられます。
餌は、相当な時間与えず、半暗闇の中で、空腹と疲労のため限界まで待ち、
手袋をした拳の上で一口与えます。猛禽でも、飢えさせられた状態になったら、
鷹匠の手袋に足を乗せるようになります。

このようにして、徐々にハヤブサは、給餌されることと、
持ち歩かれることに慣れてきます。調教されたハヤブサは、
自分で捕まえた獲物を食べることはありません。
常に、手袋をはめた拳の上で鷹匠から与えられた餌を食べて生涯を送ります。

そして、手袋をはめた拳を示されると常にそこに戻るようになります。
狩りのとき以外は、足は常にひもでくくられ、
周りの刺激で興奮しないように目隠しの帽子をかぶせられて飼われます。

日本では、昔から、隼人(はやと)という名前の男の子がいますね。
薩摩隼人というところからとった、男の子らしい良い名前だと思います。
隼人というのは、古くは、薩摩・大隅(鹿児島県)に住む人のことを言ったそうです。
最初は大和政権に反抗したようですが、やがては支配下に置かれました。
熊襲(くまそ)と呼ばれていた人たちも同じような立場の人たちでしたが、
こちらは、ずっと反抗的な存在として歴史の記録に登場します。
熊襲とは違い、隼人は、天皇や王子たちの近習としての記述が多いそうです。
なんだか、このレメディのエネルギーに近いものを感じます。

テキストとしてCHKで使っているマテリア・メディカ“FocusMM”には、
このレメディは載っていません。
作者は同じですが、“Synoptic Reference”には登場するので、
授業では、その記述をご紹介しました。
Falco-pのページに出てくる症状は、
ハヤブサの身体的な特徴を表わすものが、いくつもありました。
そして、鷹匠に扱われる存在としての苦しみ。

私は、このレメディは、今までにも授業で取り上げてきました。

でも、今回、私が強く感じたのは、鷹匠に古代から人間に
このような扱いを受けてきた鳥をレメディの原材料とすることを思いついた
ミッシャ先生のホメオパスとしてのセンスでした。
ミッシャ先生のセミナーでのお話では、親からの様々な虐待を受け、
逃げても逃げても、逃げきれなくて苦しんでいる人がいて、
様々なレメディを使っても癒し切れなかった。
いろいろ思い悩むうち、鷹狩りに使われているハヤブサを
レメディにすることを思いついた・・・ということでした。

素晴らしい身体能力と、美しい姿、狩の技術をもったかっこいいハヤブサと、
鷹匠に飼いならされて、不自由なままに生きるハヤブサの存在としての落差。
生徒さん達の反応は、この落差に対するショックが一番でした。

生徒さんからは「こんな人、私のまわりにもいる。あの人かも・・・。」
そんな言葉が漏れました。

自然界に生きる動物の苦しみは、人間のなかにも反映されている。
そして、その苦しみを和らげる術がホメオパシーにはある。

今回の授業では、そんな感動を、生徒さん達の反応から頂いた気がしています。